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高度専門人材を育み地域社会へと送り出す使命。
新学長佐川泰弘が語る、茨城大学の教育の展望

 世界中でテクノロジーが飛躍的な発展を遂げ、産業の形を大きく変えつつある今、どのような人材を育成し、地域へと送り出すことが大学の使命であるのか──4月に学長に就任した佐川泰弘が現状を分析しつつ、今後茨城大学が目指すべき姿についてお話しします。

狭い意味での専門分野の学びにとどまらず、他分野の学生や社会人との関わりの中で俯瞰性、実践性を身に付けられる場に。

創立以来80年近く掲げ続ける理念「地域にとって有為な人材を育成する」

 茨城大学は地方国立大学として、創立以来80年近くにわたり、いかなる時代にあっても「地域にとって有為な人材を育成する」というミッションを揺るぎなく掲げてきました。この点については、疑いの余地はありません。ただしそのミッションがどこに体現されてきたのかを振り返ると、かつては主として就職先という「出口」によって示されていたものが、この20年ほどで大きく変化してきたと認識しています。すなわち地域社会のニーズを強く意識しながら、教育課程やカリキュラムそのものも構築していくことに、主眼が移ってきているのです。
 私自身、人文学部から人文社会科学部への改組を学部長として担った際には、「地域経営人材」の育成というキーワードを掲げました。ここで目指したのは、単に地方公務員として就職するだけではなく、地域社会そのものをマネジメントし、牽引していく人材へと成長できる人になってほしいということです。実際、本学の卒業生は自治体において部長級として活躍している例も多く、さらに教育学部においても茨城県内の学校の管理職や教育行政に関わる人材の中で、本学出身者が占める割合は非常に高い。このような実績は、地域社会における本学の役割と期待の大きさを示しているものだと私は受け止めています。

地域が望む、理工系および農業分野における高度専門人材の育成

 一方で理工系に目を向けると、これまで全国規模の企業で活躍する人材を多く輩出してきたという実績がある反面、茨城県内で活躍する人材の育成という点では、相対的に十分とは言えなかった面もあるかもしれません。地域とどのように関わりながら、どのような人材を育てていくのかを、改めて真剣に問い直す時期に来ていると考えています。
 産業界の方々、あるいは本学と関係の深い企業のトップの方々と対話を重ねる中で、とりわけ修士レベルの高度専門人材への期待が極めて高いことを実感しています。大企業での研究開発に従事する道ももちろん重要ですが、それだけでなく、各地の生産現場において刻々と変化する状況に対応しながら、どのようにものづくりを進めるかを考え、ラインの責任や設計を担うことのできるような人材へのニーズが高まっているのです。
 農業分野も同様の構造にあります。生産現場の高齢化が進む中で、農業県である茨城においては、省力化や自動化の導入なしには農業経営の持続は困難です。その中で、付加価値の高い農産物をいかに生み出すか、さらに気候変動という不確実性の中で、日本の食料需要に応える生産をいかに持続させていくかを、現場で考え、実践し、周囲を牽引していく人材が強く求められています。

今、求められる俯瞰性や実践性 多様な人との交わり、関係性が育む

 本特集で紹介されている卒業生たちは、それぞれの専門性を具体的な職業の場で存分に発揮し、第一線で活躍しています。しかし同時に、人生が常に予測通りに進むわけではないことを踏まえれば、大学で身に付けるべき能力は、より汎用性、幅広さをもった俯瞰的なものでなければなりません。すなわち、どのような職種や業界、ポジションにあっても、歴史や社会環境の中で企業や地域の位置づけを俯瞰的に捉え、最適なアクションを構想し、判断し、実行できることです。だからこそ本学のディプロマ・ポリシー(DP)では、第一に「世界の俯瞰的理解(DP①)」を掲げているのです。この俯瞰性は、国際的な視野はもちろん、「課題解決能力・コミュニケーション力(DP ③)」とも不可分です。
 しかしながら、こうした俯瞰性や実践性は特定の授業や限られた科目だけで身に付くものではありません。むしろ鍵となるのは、ありきたりな表現かもしれませんが、多様な人との交わり、関係性です。
 人は個として存在しているだけでは、自分自身を十分に認識することはできません。他者との対話の中でこそ、自らの立ち位置を相対的に理解することができる。そしてその立ち位置は固定的なものではなく、多様な社会との関係の中で常に変化していくものです。私は、学生たちがその変化を前向きに受け止められるようになってほしいと強く願っています。

地域のステークホルダーとの対話を一層深めていくことが不可欠

 そのためにも、狭い意味での専門分野の学びにとどまるのではなく、他分野の学生や社会人との関わりの中で学べる機会を、これまで以上に積極的に創出していきたいと考えています。世界各国でナショナリズムが強まる傾向が見られる中、多様なバックグラウンドをもつ留学生との交流は、普遍的な価値とは何か、あるいは世界のエリートが何を考えているのか、それが本当に望ましいのかといった問いを深める上でも、極めて重要です。
 さらに地方国立大学の強みとして、学外との近接性が挙げられます。地域未来共創学環のコーオプ教育に見られるように、企業や自治体との連携を通じて実践の機会を広げていくことは今後さらに強化していかなければなりません。この4月にスチューデントサクセスセンター(SSC)内に設置したアカデミックアドバイジング室も、そうした学びへと向かう学生たちを支える基盤として機能させていきます。
 そして今後の社会を見据えれば、AIの進展などにより、求められる能力は一層高度化していきます。各専門分野で学ぶべき内容も増大しており、学部4年間だけでは十分とは言えません。少なくとも6年間、すなわち修士課程まで含めた学び、高等教育の新たなスタンダードになっていくと考えています。そのため、大学院教育においても、俯瞰性と実践性を兼ね備えた新しい教育課程への転換が不可欠です。
 そのうえで、修士号を有する高度専門人材が地域で活躍するビジョンを実現するためには、産業界との対話を一層深めることが欠かせません。現状ではなお、地域において人材のミスマッチが存在しています。企業側からは「どのような場面で力を発揮してほしいのか」という具体的なニーズを引き出し、大学側からは「どのような教育を通じて、どのような人材を育成しようとしているのか」を明確に伝えていく。この双方向の対話こそが重要です。文部科学省が提唱するように、地域のステークホルダーが高等教育について議論するプラットフォームの整備も含め、さまざまな形で対話を深化させていくことが、地域における高度専門人材の育成と活躍を実現するための確かな道筋であると、私は考えています。

Profile

茨城大学 学長 佐川 泰弘 (さがわ・やすひろ)

1964 年徳島県生まれ。1997 年フランス国立ボルドー政治学院DEA 取得コース修了。1998年、明治大学大学院政治経済学研究科政治学専攻博士後期課程単位取得退学。1998年、茨城大学人文学部に講師として着任。2006年に教授、2014 年に人文学部長・人文科学研究科長となり、在任中に人文社会科学部への改組を担当。以降、理事・副学長などを経て、2026年4月より学長。専門は政治学、行政学。

高度専門人材教育に関するQ&A

Q1 高度専門人材とは?

A. 高い専門知識や研究力を生かし、企業や自治体、教育機関、研究機関などで課題解決や新たな価値創造を担う人材です。茨城大学では、学部教育に加え、大学院での研究活動や実践的な学びを通じて専門性を高めています。

Q2 茨城大学の大学院にはどのような研究科がありますか?

A. 人文社会科学研究科、教育学研究科(教職大学院)、理工学研究科、農学研究科の4つの研究科があります。修士課程や専門職学位課程、博士課程を設置しています。

Q3 博士の学位を取得できますか?

A. 理工学研究科は博士後期課程(3年)を設置しており、博士の学位を取得できます。農学研究科は修士課程のみですが、東京農工大学・茨城大学・宇都宮大学が共同で運営している博士課程である連合農学研究科に接続しています。

この記事は茨城大学の広報紙『IBADAIVERS(イバダイバーズ)』に掲載した内容を再構成したものです。

構成:茨城大学広報・アウトリーチ支援室 | 撮影:瀬能 啓太(フォトグラファー/教育学部卒業生)

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